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●吉本隆明『 マチウ書試論』とは何か(2)。
『マチウ書試論』の主題は、なんなのか。吉本隆明は、何故、貴重な時間を費やしてまで、この『マチウ書試論』を書いたのか。しかも、キリスト教の聖典である聖書の中にある「マタイ伝」とはいえ、吉本隆明には、格別の宗教的関心も信仰上の関心もなかった。では、吉本隆明の関心は、何処にあったのか。
《マチウの作者が、ジェジュをあたかも実在の人物であるかのように描き出したという点だけからみれば、マチウ書はいまではほとんど読むにたえない幼稚な、仮構の書であるかも知れないが、ジェジュに象徴されるひとつの、強い思想の意味をとり出してくるとすると、いまでもそれを無視することはできないものである。》
吉本隆明にとって重大な関心は 、ジェジュ(イエス)が実在の人物か架空の人物かというような問題にはなかった。はじめから、架空の人物であることは自明のことだった。問題は、何故、キリスト教という新興宗教の誕生と形成のために、マチウ書のような架空の書が書かれなければならなかったのかという《思想的意味》であった。では、その《思想的意味》とは何か。
《資料の改ざんと附加とに、これほどたくさんの、かくれた天才と、宗教的情熱とを、かけてきたキリスト教の歴史をかんがえると、それだけ大へん暗い感じがする。》
私は、吉本隆明の『マチウ書試論』の主題は、この《暗い感じ》だったと思う。