山崎行太郎公式ブログ『 毒蛇山荘日記』

哲学者=文芸評論家=山崎行太郎(yamazakikoutarou)の公式ブログです。山崎行太郎 ●哲学者、文藝評論家。●慶應義塾大学哲学科卒、同大学院修了。●東工大、埼玉大学教員を経て現職。●「三田文学」に発表した『小林秀雄とベルグソン』でデビューし、先輩批評家の江藤淳や柄谷行人に認めらlれ、文壇や論壇へ進出。●著書『 小林秀雄とベルグソン』『 小説三島由紀夫事件』『 保守論壇亡国論』『ネット右翼亡国論 』・・・●(緊急連絡) 070-9033-1268。 yama31517@yahoo.co.jp

作家・岳真也さんの最新作『 翔』について。(2)

作家・岳真也さんの最新作『 翔』について。(2)

岳真也さんの最新作(『 翔』)について書こうとしながら、私は、作品より 、作者の岳真也さんのことばかり書いて来たような気がする。何故だろうと考えてみると、やはり、『翔 』という私小説の主人公である次男(匠君)と岳真也さんとが、重なってみえるからだろうと思う。私は、匠君とは、一度、会ったことがあるが 、この小説を読んでも具体的イメージが湧いてこない。思いだそうとしても、思いだせない。具体的イメージが湧いてくるのは、岳真也さんその人だ。私には、匠君も、岳真也さん本人のように見える。匠君の人生は、岳真也の「もう一つの人生」だったのではないか、と。この小説を読んで、匠君が反抗や暴力や暴言を繰り返しながらも、父親(岳真也)を愛し、尊敬していたことが分かる。おそらく、父親(岳真也)が、子供(匠君)を愛するよりも、子供は父親を愛していたのだろう。「僕は、作家・岳真也の息子である」と、叫び続けていたようにみえる。匠君は、家庭外で、友達を作ることが出来きなかった。誰もが容易に作り上げる「人間関係」を、構築することが出来なかった。父親が友達だったからだろう。岳真也さんからは想像できないが、岳真也さんの次男=匠君は、家庭外では内向的で、自閉的だったようだ。不愉快なことを言われても、何も反論できず、黙って引き下がる。すべてを受け入れる。内部に沸き起こる言葉を、押さえ込み、「いい子」を演じながら、しかし家庭内では、我慢していたものを爆発させる。次第に心を病んでいき、入退院を繰り返すようになるが 、匠君の病気(鬱病)は治らない。器質的病気でも社会的病気でもなく、実存的病気だからだ。
さて、この小説の唯一の欠点は、「イジメ」の問題を、すべての起源のように書いているところだろう。私は、「イジメ」が原因で、匠君は、外部への扉を閉ざしたのではないと思う。匠君自身が閉ざしたのである。
話は飛ぶが、岳真也さんは、匠君に関する一連の問題を、社会的問題として、つまり、教育論とか家庭論とか人生論とかいうような形で書いていない。書こうと思えば書けただろう。しかし、作家・岳真也さんは、小説で書いた。これは重要である。岳真也さんにとって、これは、小説でしか表現出来ない問題だったのだ。一般的な社会問題ではなく 、まさに「実存的」な問題だったのだろう。ここには、「病者の光学」(ニーチェ)がある。病気を治そうとする「医者の眼差し」ではなく、病者と共に生きようとした「病者の眼差し」がある。現代の小説が失ったものである。



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